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「非常の人 何ぞ非常に」感想書いてみました [舞台]

全然長さを感じさせない面白い舞台でした。
けど、やっぱり長かったんや。書きたいことがいっぱいで、ちっともまとまらない。
何回も観ておけば良かった、なんて今更大千秋楽しか行けなかった自分を憐れみつつ、
観念して書く。

暗転からのオープニングがカッコ良かった。
アナログなタイトル幕の上昇にトラムが被って、ライブステージみたい…
と思ったら、トラムではなく陰間茶屋の欄間!

そこにおしろいの香りが漂って来そうな、小柳友さん演ずる菊千代が登場した時は目眩がしそうやった。
こんなに色っぽくて綺麗な子やったんや?!
全然女装っぽい陰間役に違和感なし。所作もちゃんとしててしなやか。けど、やっぱデカっ!
茶屋を出入りする度、ポニテや髷を引っ掛けへんか?とか、とにかく友さんが出る度ドキドキ。
美麗なのに口調は悪ガキのまんまで、そのアンバランスが可愛さや色気となって、男を狂わせてしまう。
それも結構気真面目でまともな人ばかりを(苦)。
(篠井さんが女将のおきぬをとってもオバチャンぽく演じられてて、魅力が引き立ってましたが、
菊之丞に変わられたとたん、菊千代以上の凛とした美麗さを発揮されて流石![ぴかぴか(新しい)]

それが親のないあの子が生き延びる術だったのでしょうね。
最初は源内も手玉に取るつもりやったんやろけど、
源内はあのくちづけで、察してしまったのでしょう。
あまりの長さにテレまくった「つがもねぇこったい」に聞こえたけどもねっ(笑)←友さんがやらかしたんやと思う!

それから源内は鳥や花を愛でるように、ただ菊千代を可愛がった。
そんな見返りを求めない愛情が必要な子だと。
玄白に対してもそうであったように、源内にはその人に必要なものを見極めるセンスがあった。
それを常識を飛び越えて与えるチカラも備えてた。解ったら迷わず行動に移さずには居られない性なのでしょうね。
実に男性的やと思います。

見返りなしの愛情を知らずに育った菊千代は、源内が自分を抱きもせずに子供扱いする理由を、
「俺と同じように、自分しか愛せない人間だから」と言い、源内はそれを肯定したけれど、
私には両者が「そう生きるしかない」境遇に縛られていただけのように映りました。

常識を飛び越えて行動して来た結果、妻子を野垂れ死にさせてしまった源内は、
自分しか愛してこなかったかのような己の生き方を許せなかったのではないか。
親の居ない菊千代に、自分しか無償で守ってくれる人間が居なかったように、
源内にも自分しか守ってくれる人間(愛してくれる人)が居なかった。
岡本健一さん演ずる玄白に「親友じゃないか!」と笑い掛けて「そう…なんですか」とポカンとされた時に
それをめちゃめちゃ痛感しました。[もうやだ~(悲しい顔)]
あの瞬間まで、源内だけが一方的に親友と思ってたんや…寂し過ぎる。
玄白はとても源内を尊敬してたから、まさか自分が同格の親友として扱われていたなんて、
考えもしなかったんでしょうね。いつでも源内は自分の先を行って元気付けてくれて助けてくれて…
いつでも頼れる先輩、甘えられる存在やったから。
源内自身も未知のエレキテルの実用性を、どうぞ「分からせて下さい」と真面目に問う素直さが切なかった。
源内はそれを玄白に相談して解明出来れば良かったのに、あれじゃー弟分の玄白に甘えられそうになかった。

玄白の深い共感相手は、解体新書翻訳の苦楽を共にした奥田達士さん演ずる中川淳庵でしたしね。
もう、あの「フルヘーヘンド(盛り上がる)」翻訳の顛末は面白すぎで、気分転換に「盛り上がってますかー?!」
と陰間茶屋に乱入して来た時点で、実はハナ(鼻?)から正解を口にしてるという脚本の妙がたまりません(笑)
手を取り合い言葉を無くして歓喜に震える姿は、私も源内と同様に「盛り上がってるなぁ」と羨ましかったです!
私の口まで言葉を無くして開きっぱなしに(笑)。
私絶対、あの場面で主導権を握っていたのは奥田さんやと思ってるんですが。
岡本さんはひたすら奥田さんに呼吸を合わせてらしたような(笑)。
幕間の、それ以降トントン拍子に翻訳が進んだという奥田さんの解説も、めちゃくちゃワクワクさせられました♪

源内が菊千代を抱かずに、玄白の出版の為に須原屋市兵衛に抱かれろと言ったのは、実に複雑ですが、
自分は見返りを求めない人間である事を菊千代に教え、かつ玄白の利益にもなる非常な選択であったように思います。
菊千代には難しすぎて、ますます荒れちゃいましたけどね…。

自分は理解しているのに、自分を理解してくれる人の居ない孤独。
上手く言葉には出来ない、理屈では割り切れずにくすぶりつづける情念は、菊千代と源内がくゆらす
煙管の煙が語っていたように思います。
その煙は白かった。
互いの傷を舐め合って時間を潰すためだけのものではなかった。

玄白に「なんでそこまで」と嘆かれても、源内は佐吉となった菊千代を見捨てずにかばい続け、
大工殺しの罪まで身代わりに背負ったのは、死なせた妻子への贖罪が根源かも知れませんが、
源内は佐吉を見込んで、賭けたんやと思うのです。
佐吉は自分の思いを理解して、変ってくれると。真っ当に生きる力を失ってはいないと。
玄白の我が子への無償の愛を知り、尚更信じようとした気がします。
そして、佐吉はその期待に応えて変ったからこそ、大工のつまらない脅しに素直に脅えてしまった。
源内を失望させる事だけを恐れ過ぎたあまりに。
以前の佐吉なら、開き直って笑い飛ばしてたよ。
自分にすがりついて詫びる佐吉の体温を感じた瞬間、それは全くの悲劇であるにも関わらず、
源内は理屈を超えた至福を感じていたと思う。
そのぬくもりは佐吉が理解してくれた強烈な証であり、源内の求めたもの。
損得勘定抜きで、我が身を投げ打ってしまえるほど説得力があったでしょう。

源内が投獄される三場、蓄積された情念は寄り集まり、背景の暗闇に浮かぶ入道雲となって、
彼の心情を表しているかのように思えました。
初冬の空に入道雲なんて出ない。ましてや、夜に出たら超常現象や。
そこで語られた源内の独白から、やはり妬みや怒りは一切感じられず、自分の不遇を嘆くよりも、
むしろ玄白を悲しませることを気にしてるようやった。
だって彼は最後の最後、玄白とその家族の幸せを願ったのだから。
そして絶命。

入道雲が消え、佐吉は江戸を去り、源内の亡骸を前にして一人風の中で送辞を読む玄白。
玄白自身の鳴き声かと思う程風の音が高まり、身震いする姿にやっと冬を感じた。
最後まで「貴方がわからなかった」なんて言う玄白やったけど、
「貴方と酒が呑みたいです!」と泣く姿に、ああ、それさえわかればええ、と思った次の瞬間、
「よし呑もう!」と源内が起き上がった。それってアリ~~~?
ぽかんとした、なんともいえない表情で、いつも以上に瞳の色が淡く抜けて見えた。
東京公演を間近で観劇された蔵友さんのブログで、屍を演じながら兄さんが涙を流してはったと知ったのだけれど、
あの瞳の色は、そういう事やったのかも知れません。
源内にとって、結局それが玄白からの一番嬉しい言葉で、応えずには居られなかったのかも。

彼はただ、あなたと一緒に居たい、あなたと居ると嬉しいと言われたくて、あそこまでやっちゃたとしか思えない。
ほんま、つがもねぇ人!
ほんでも、だからこそ抱きしめたいほどアーンテレッケンですわ!←覚えてしもた
こんなに熱~い男達に惚れこんだ自分を、愛しく切なく誇りに思う。[揺れるハート]
だってさ、私の方がわざわざ見つけて好きになったんやしね!間違いなく見返りなしで。

この先どれほど佐々木蔵之介が男っぷりを上げて、まばゆいばかりに輝こうともや、
そこだけは、へなちょこな私に勝たれへんねん!←つがもなさを張り合ってみた
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おーちゃん

ん~実に、熱い!そして、深い!どうりで、その他諸々含めて
ステキな時間やった訳やね?

確かに見返りを求めない愛ってほんとに存在するし、
それが一番キレイやって知ってたつもりやけど~

そっからするとやっぱ夫婦ってめちゃめちゃ見返りを求め合う
関係なんやと思い知らされたような気がするわ。

そして、それはなかなか手に入らないものとさえ(笑)

そんで以って、ええ舞台観たせいか姉さんステキどすえ♪
文面から脈々と伝わってくるで!

いい時間やいい言葉って、その人に宿って初めて生きてくるんやね?
by おーちゃん (2013-08-21 00:07) 

むーぽ

深いですね~。しみじみ。
ひとりひとりの沁み方もありますね~。
いつも玄白の訪問を、心から喜んでいた源内さん。
あんなに愛されている玄白を毎回見るたび
わたしがじぇらってしまうのは(笑)ちうをしたり罪をかぶったりしてあげた菊千代ではなく玄白だった。
菊千代に憎まれても、玄白をフォローしようと悪役を買って出た源内さん。
菊千代への愛と玄白への愛ではそれぞれ表現は違っていたかもしれないけれど、最後の最後まで玄白を思っていた・・・・。
片思いに近い玄白への愛を思う時に自分の中にもあるものが泣き
それが切なく余韻はどんどん強くなる。
あとからジンジンきます~今回(T_T)。
アーンテレッケン100万回!!!そしてエンドレス!!!(誰と張り合うのか?(笑))
>わざわざみつけた
恋愛ニートでみつけて惚れた稀有な自分を褒めたい(笑)


by むーぽ (2013-08-21 01:33) 

カリコ

>おーちゃん

熱かったよ~♪ほんまモロモロ含めてステキ時間やったよ♪

>確かに見返りを求めない愛ってほんとに存在するし、
>それが一番キレイやって知ってたつもりやけど~

うーん、けど、人生はキレイな愛一本立てではやっぱし、
野垂れ死ぬ事に…なるんちゃう?(苦)

夫婦はさ、求め合うてこそモチベーションも上がって、
暮らして行けるんやろ(笑)

>いい時間やいい言葉って、その人に宿って初めて生きてくるんやね?

ほんまやな。名言出たな!
ほんで、宿ったいい時間やいい言葉が人を生かすんやんな。
by カリコ (2013-08-21 22:07) 

カリコ

>むーぽさん

あんなに面白くて深いって…スゴイですよね~(笑)

>わたしがじぇらってしまうのは(笑)ちうをしたり罪をかぶったりしてあげた菊千代ではなく玄白だった。

源内が本当に理解を求めたのは、玄白でしたもんね。
ほんまの無償の愛を捧げた相手は佐吉でなく玄白やったのに、
玄白は源内に何も返さんかった…(T-T)
佐吉になんでそこまでしてやるのかって嘆いてたけど、
アンタの方が佐吉以上に甘やかされとるやろがー!
玄白って、佐吉より子供やったんですよね。
不器用で真っ直ぐな玄白は自分の事だけで手一杯で、源内はそこが可愛くて…あー切ない。
もしもね、玄白が何かを返せなくても、返そうとしてたら、源内はあそこまで心を縛られずに済んだのかも知れませんよ。

”お返し”は大人のたしなみですよね?
「10倍返しだ!!」(by半澤直樹)ん?

>恋愛ニートでみつけて惚れた稀有な自分を褒めたい(笑)

ほんまにソコはむーぽさん、誇るべきです!無敵です!!参りました!!(笑)
あの体調で遠征成功させたむーぽさんは、神です♪

by カリコ (2013-08-21 22:43) 

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