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封印がとけた

父のことを書いていたら、うっかりお正月の禍々しい記憶が蘇ってしまった。
これはもう、血を分けた兄弟達も親しい友人もたぶん知らない。
なんせ私が芦田愛菜ちゃんサイズだった頃のことなので、
弟達は赤ちゃんだったり、まだ生まれてなかったりの昔話。

お正月、隣町に住む親戚の家へ父の車で年始のご挨拶に行くのが恒例だった。
確か母はヨチヨチ歩きの弟を抱えて懐妊中とかやったから、
その年は父と二人で伺った。
私は赤い晴れ着に赤い和装コートを羽織って、
顔の付いた白いキツネの襟巻きやらビーズのバッグやらで飾られて、
それに似合うよう、おすまししてた。

夜も更けて帰宅の時間になり、父の車に乗り込んだ。
父はエンジンを掛けてから「そうや、忘れ物」と一人車を降りて親戚宅へ引き返した。
サイドブレーキを引かずに…
坂道で!!

車はとろとろと動き出し、私を乗せたまま側の小川に転落した。

「お父さん!お父さん!お父さーんっっ!!」ガッシャーン
落ちるまでは、父に助けを求める悲鳴を上げていた。

小川は車が横倒しですっぽり納まる小ささだった。
冬だったので水はなかったし、川沿いに張り巡らされた隣家の戸塀が
衝撃を殺してくれて、私は無傷だった。
が、今や床となった運転席のドアまで振り落とされて、
天井になった助手席のドアを見上げていた。

「助けてぇー!!」と女の子らしく泣き崩れる場面やったと、今なら思う。
けど幼い私は泣く余裕すらなく…エンジン掛かったままの車が横倒しになったら、
「爆発する!!一刻を争う事態や!」と飛び上がった。
だって、テレビでは必ず大爆発しててんもん…

履き物を脱ぎ捨て、肘掛やハンドルを足掛かりに助手席のドアを持ち上げようとした。
が、重力で閉ってしまう。いつもなら隣の車にぶつけないように気を付けなきゃならんほど、
軽~く開いてしまうくせに、やはり鉄の扉丸ごと1枚分、幼稚園児が持ち上げるには重過ぎた。
いんや!開けなければ、死!←まさしく必死

これでどや?!とドアを両手で押さえながら全力でジャンプ。
またも運転席まで転げ落ちたが、ドアは開き切って止まってくれた。
やった!とばかりに這い上がり、車外に脱出。
ぐしゃぐしゃに着崩れて袖は捲れ上がってノースリーブ状態。晴れ着だいなし。

そして呆然と立ち尽くす父を見つけて、「お父さんっ!!」と怒鳴りつけた。
「なんで助けへんのっ!![むかっ(怒り)]

父は、
にっこり笑って優雅に「ああ、すまんすまん」と言いやがったのだ。

それを聞いて私は「こいつ怖気づいて見殺しにしようとしたな」と思ったのだった。
だって、爆発するとこやってんで(しなかったけど)。
その直後に物音に気付いた親戚が表に出てきて、やっと「大丈夫かっ?」という人間らしい言葉を
聞けた私は「怖かったよー!」と子供らしく叔母の腰にしがみ付いたのだった。父にではなく。

こうして振り返ってみると、幼い頃の私は危機管理能力が高過ぎたのかも知れない。
若造だった父がフリーズしてる間にサクッと事を終わらせてしまったのだろう。
親戚が出てくるより先に脱出を済ませていたのだからプリンセス天功なみの早業だ。

転落から間髪入れず天井(になったドア)をバーンと開けてちっちゃい子が飛び出して来るなんて、
呆然と見入ってしまう光景やろう、とは思う。
泣きもせずに「何しとんねん!」と怒り狂ってたら、そら心配御無用って感じ?
かも知れんが、人として間違うてるやろ、と幼い私は思った。
笑うなんて。
そんな目に遭うて怖がらへん子供が何処にいる?大人でも怖い。
(あ、今考えたら窓開けて出れば良かったんや。当時は思い付かんかったけど)

この封じられていた経験の記憶が、
どんな厳しい状況に追い込まれていても「なんとかなる」という
根拠のない自信に今だ繋がっているのかも知れない。
特技:脱出。
心根こそぎ折れへんはずやわ。
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おーちゃん

今度から、履歴書の「特技」欄にそう書かなあかんな?(笑)
我が娘を見ているかのごとく、すさまじい生命力!

その強さゆえの今なんやな~と、めっさ納得やわ☆
三つ子の魂、百までもとは、よう言うたもんやな?

幼稚園児でも「カリコは、カリコ」そんな頃から『カリコ』
やってんな?(笑)

しかし、お父上、、、もうちょっと慌てようよ(苦)やな?
いくら娘が無事で怒り狂っていようと。

by おーちゃん (2012-01-09 06:57) 

カリコ

いえいえ、御息女には敵いませんことよ~
私が強いのはやっぱり「気」だけで、体はヘナチョコや(汗)

父は慌て過ぎてそーなってたんちゃうのんと思うわ。
テンパって対応をしくじってもあの土地柄と立場ゆえ、
つっこみ入れて修正してくれる貴人に恵まれんまま、
アホのまんま陰口叩かれとったんやと思うで。

1年のクラスメイトに、きちんと美意識を持って、
「カリコ、女の子はそういうこと言うたらあかんよ」とか
言うてくれるええとこのお嬢さんがおってんけどさ、
感動すると同時に、この子しんどいやろなと(苦)
あそこでは見て見ぬフリして陰口叩くんが「賢い」とされてるから、
でしゃばりとか偉そうとか誤解されて寂しい思いしたやろなって。
それも丸ごと引き受けて行動する彼女は、得難い貴人やった。

…てな事をあの頃はぁこに言うたらな?
「あんた(女子高生好きの?)おっさんみたいや」て返された!
はぁこやろ。
by カリコ (2012-01-09 22:09) 

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